西武新特急 JR九州デザイナーの水戸岡鋭治氏は「絶賛」 – livedoor

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先頭部分に曲面ガラスを採用した西武の新型特急「ラビュー」は来春デビュー予定だ(写真:西武鉄道)

「レッドアロー」の後継として、西武鉄道池袋線に来春デビューする新型特急電車「Laview(ラビュー)」のデザインが話題だ。完成車両はまだ正式に公開されていないが、車両を製造した日立製作所笠戸工場から西武の車両基地へ搬送される様子や、車両基地内での試運転の様子がユーチューブやツイッターにアップされるほど注目を集めている。


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この新型車両のキャッチコピーは「今まで見たことのない新しい車両」。確かに、銀色に輝くボディ、床面まで届きそうな大きな窓、そして旅客機を思わせる球体のような先頭形状は確かにこれまでの鉄道デザインとはまったく違う。

「今まで見たことのない車両を造ってほしい」

基本デザインを手掛けたのは、建築家の妹島(せじま)和世氏。トレド美術館ガラスパビリオンや金沢21世紀美術館など著名建築物の設計で知られる日本の建築家ユニット「SANAA」(サナア)の共同運営者の1人であり、「建築界のノーベル賞」と呼ばれるプリツカー賞を2010年に受賞している。


石川県金沢市にある金沢21世紀美術館。妹島和世らによる建築家ユニット「SANAA」が設計した。円形の総ガラス張りが特徴で、中にはさまざまな形の展示室が配置されている(写真:共同通信)

建築物も鉄道車両も内部で人が過ごす構造物という共通点があるせいか、建築家が鉄道車両のデザインをする例は珍しくない。西武の観光列車「52席の至福」をデザインした隈研吾氏、南海電気鉄道の特急「ラピート」をデザインした若林広幸氏、「VSE」「GSE」など小田急電鉄の数々のロマンスカーをデザインした岡部憲明氏、えちごトキめき鉄道の観光列車「雪月花」をデザインし、現在はJR西日本(西日本旅客鉄道)の「新たな長距離列車」をデザイン中の川西康之氏など、何人もの名前を挙げることができる。


ラビューの基本デザインを担当した建築家の妹島和世氏。手掛けた建築物は高い評価を得ている(撮影:尾形文繁)

そんな中で、妹島氏のデザインした車両はなぜここまで話題を集めるのか。10月29日に都内で行われたラビューの発表会で、西武の後藤高志会長や女優の土屋太鳳さんと並んで妹島氏も登壇し、報道陣の質問に答えた。妹島氏のコメントから今回の車両デザインに対する思いが見えてきた。

西武が妹島氏に出したリクエストは、キャッチコピーである「今まで見たことのない新しい車両を造ってほしい」というものだった。妹島氏にとって鉄道のデザインは初めて。さまざまな鉄道車両のデザインを研究することから始めたという。

妹島氏は考えた。「小さいお子さんは格好よくシャープな車両が好き。しかし、西武の特急列車には子供からお年寄りまで幅広い年代、さまざまな目的を持つ人が乗る。誰もが新しく感じる車両とはどのようなものだろう」。そして、たどり着いた結論は、格好よさよりも柔らかさを出す。角張らず丸みを帯びる。車両が主張しすぎず、周囲の風景に溶け込み、風景の中に置かれることで見え方が変わってくる――というものだった。

このコンセプトには製造を請け負った日立側も最初は驚いたが、「チャレンジングだが、実現できる」と判断した。地下鉄に乗り入れることも想定して前方の窓が扉として開くなど、実務上の要求にもきちんと応える設計になっている。


銀色に塗装したラビューの車体に大きな窓を配置した(写真:西武鉄道)

銀色に輝く車体はアルミの地肌ではなく、塗装を施すことで周囲の風景に溶け込むデザインを目指した。「塗装しない状態も試してみたが、ピカピカにすると、かえって黒っぽく見えることもある」と妹島氏は話す。

そして客室の大きな窓は、居間の窓をイメージしたという。「寸法上も大きいが、それだけでなく、試行錯誤して見た目よりも大きいと感じられるようにプロポーションを決めた」という。一方で、走る列車の窓があまりにも大きいと、かえって不安に感じる乗客もいるかもしれない。そのため、座席は体が包み込まれるようなデザインにして、安心感を得られるような工夫を施した。


10月29日に西武鉄道が開いたラビューの発表会では、黄色の座席がお披露目された(撮影:尾形文繁)

客室内は窓が大きい分だけ装飾がほとんどなくシンプルだ。黄色いシートは妹島氏が通学時に利用していた西武新宿線の車両をイメージしたという。「今回は特急車両のデザインですが、私にとって西武といえば黄色なのです」。落ち着きのある黄色、華やかな黄色、さまざまな黄色から選んだのが今回の黄色だった。

水戸岡鋭治氏は「絶賛」

外観も内装も非常にシンプルなラビューのデザイン。その対極にあるのが、豪華寝台列車「ななつ星 in 九州」に代表される、JR九州(九州旅客鉄道)の観光列車群といってよい。「或る列車」「海幸山幸」「かわせみやませみ」「いさぶろう・しんぺい」など、その車両の多くは木材をふんだんに使ったクラシックな内装が特徴で、乗客の目をとらえて離さない。JR九州の観光列車に乗るために全国から観光客がやってくる。これらの列車をデザインした水戸岡鋭治氏は、今や鉄道デザイナーとして真っ先に名前が挙がる存在となった。


JR九州の観光列車群のデザインを多数手掛けた水戸岡鋭治氏。後ろは「ななつ星 in 九州」(撮影:梅谷秀司)

では、水戸岡氏はラビューのデザインをどう考えているのだろうか。

「すばらしい。すごいと思います」――。

11月5日の夜、都内で開かれた講演会で、「ラビューのデザインをどう思うか」という会場からの質問に対して、水戸岡氏はこう答えた。「妹島さんはそうとう頑張ったと思います。普通はこういう提案をするとアウトです。先頭の曲面は設計上許されるギリギリなのでしょう」と水戸岡氏は妹島さんの仕事を高く評価した。

木目調のクラシックなデザインを得意とする水戸岡氏だが、意外にも「モダンなデザインが大好き」なのだと言う。


水戸岡氏は、国鉄時代の特急車両「485系」を鮮やかな赤に塗りつぶしてリニューアルした(記者撮影)

水戸岡氏が手掛けた観光列車は、ななつ星を筆頭に、木材を多用したクラシックなデザインが多い。しかし、初期段階ではさまざまなタイプのデザインを行なっている。例えば485系という国鉄時代の特急車両のリニューアルに際し、赤一色に塗りつぶすという大胆な試みで関係者を驚かせた。また、新幹線800系は現代的な室内空間に和風柄の座席を配置し、「和モダン」というイメージがぴったりくる。さらに、883系「ソニック」の内装はモダンどころか、むしろ近未来の列車を想起させる。

水戸岡氏のデザインは乗客本位

実はななつ星も当初案は、全面ガラス張りで丸みを帯びた近未来的な寝台列車だった。だが、当時の唐池恒二・JR九州社長(現会長)は「豪華列車の旅を楽しむ50〜70代の客層はヨーロッパ風のクラシックなデザインを好む」という理由でこのデザインを却下。その判断は見事に的中し、ななつ星は運行開始から5年経った今も高い人気を誇る。

つまり、水戸岡氏が目指しているものは、クラシックかモダンかはあまり関係なく、乗客に感動を与えることができるかどうかという点に尽きる。その結果としてのデザインがクラシックだったりモダンだったり、ということなのだろう。

JR九州で水戸岡氏が手掛けた観光列車には中古車両を改装したものが多い。しかし、車内に足を踏み入れれば、内装のすばらしさに圧倒される。これが古い車両だとは誰も思わないだろう。

JR九州の「或る列車」。クラシカルで豪華な内装が特徴だ(撮影:今井康一)

中古車両を見事な観光列車に仕立てた実績が買われ、全国各地の鉄道会社が、水戸岡氏に観光列車のデザインを依頼している。だが、その注文のほとんどがクラシックなデザイン。その理由は、唐池氏の言うように「客が望むから」というものもあるが、中にはコストが理由となるケースもある。

「モダンなデザインの車両はある程度コストをかけないと造れないが、クラシックなデザインはそれほどコストをかけずに造ることができる」と水戸岡氏は言う。クラシックなデザインの車両を数多く生み出し、その経験やノウハウが生かされているという側面もあるだろう。

さらに、水戸岡氏の周囲には、これらの列車の内装を数多く手掛けてきた「チーム水戸岡」とも言うべき職人集団がいる。こうした人たちが納期内に要求どおりの装飾をきちんと作ることが信頼感を醸成する。水戸岡デザインの列車を運行する鉄道会社の元関係者は、「鉄道デザインの経験がない人に発注するような冒険はできなかった」と明かす。

船のデザインも「前例破り」

現在、水戸岡氏は船舶のデザインにも乗り出している。小田急電鉄が芦ノ湖で運航する新型「海賊船」や、福岡ー釜山間を結ぶJR九州の「クイーンビートル」などだ。とりわけ、クイーンビートルの真っ赤な外観は、かつての真っ赤な485系のようなインパクトがある。


現在、水戸岡氏がデザインしているJR九州の「クイーンビートル」。福岡―釜山航路に2020年7月に投入される予定だ(写真:JR九州)

普通、客船と言えば白を基調とすることが多いが、あえて赤くするのは、見る者、乗る者を感動させようということにほかならない。水戸岡デザインの真骨頂とは、こうした「前例破り」にあるように思われる。

今回の妹島氏のラビューもまさしく前例破りのデザインだった。船に続く水戸岡氏の仕事がまた鉄道だとしたら、それは誰も見たことがないようなデザインとなるだろうか。ただ、それを実現させるためには、その挑戦を許容する鉄道会社と、デザインを形にするメーカーの協力が欠かせない。





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