ヤマハピアノが渇望する世界的「名門」の座 – 東洋経済オンライン

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浜松にあるヤマハ本社で7月にオープンした同社の歴史を展示するコーナーでは、1900万円の最高級ピアノ「CFX」も並ぶ(撮影:梅谷秀司)

国内最大手の楽器メーカー・ヤマハの代名詞と言えば、ピアノだ。そもそもヤマハのルーツは鍵盤楽器にある。1887年に創業者の山葉寅楠(やまは・とらくす)氏がオルガンの修理に成功し、同じ年にオルガンを製作したことが創業のきっかけだ。

ピアノの世界市場規模は約3000億円(ヤマハ調べ)で、ギターと並ぶ楽器市場の2大巨頭だ。ヤマハは「YAMAHA」ブランドを全世界に展開。アコースティックでは高級グランドピアノから小型のアップライトピアノ、さらに電子ピアノもアコースティック鍵盤の感触を再現した高単価のものから、小型のキーボードまで品ぞろえは幅広い。

2008年にはオーストリアの名門ピアノメーカー「ベーゼンドルファー」を約25億円で買収し、高級ピアノ戦略を強化している。一方、成長市場の中国では、現地メーカーの「パールリバー」が背中を追いかけてくる。日本をはじめとする先進国市場には頭打ち感がある中、ヤマハはアコースティックピアノと電子、高級品から廉価品と全方位戦略を進める。中田卓也社長が思い描く戦略とは。


ヤマハのピアノは世界に追いついた


──ベーゼンドルファーを買収して10年が経ちます。高級ピアノ市場をどのような戦略で攻めますか。


戦略としては、ヤマハとベーゼンドルファーの両方でピアノの頂点を目指している。両社のグランドピアノは同じ形をしているが、作り方が異なっており、ピアノとしての性格がまったく違う。


ヤマハのピアノは、薄い木板を曲げて何層にも貼り合わせるという主流の作り方を採用している。大ホールで弾く、協奏曲のような音量を求める場合に向いている。一方、ベーゼンドルファーは大きな木の塊から曲面を削っていくのだが、もう少し繊細な感じがする音色を出す。小ホールや室内楽で使う場合には、こちらの音を好む人がいる。


どちらがよいとか悪いとかではなく、弾く音楽や弾き方、音をどう表現したいかによって変わってくる。どちらもなくしたくないという思いで、われわれはそれぞれで頂点を目指している。


ベーゼンドルファーのピアノの中には、屋根の裏にオーストリア出身の画家・クリムトの絵が描かれたモデルもある(撮影:梅谷秀司)


ただ歴史の分だけ、ハイエンドとしての認知度はまだ不足している部分もある。1900年頃からさまざまなホールにピアノを置いてきた米スタインウェイ&サンズが最も認知度が高い。どのホールにも置いてあるので、ピアニストも安心して弾けるという思いがあるのだろう。


ヤマハのピアノから出てくる音や表現力が劣っているとは感じていない。着実に世界のレベルに追いついたという認識を持っている。コンクールの参加者は自分の賞を懸けてピアノを選ぶが、前回(2015年)のショパン国際ピアノコンクールでは、ファイナルに残った10人の出場者のうち半数の方々にヤマハのピアノを選んでもらえるまでになった。


──そもそも高級ピアノ市場を攻める意味とは。



ハイエンド品があるかないかでブランドの価値が位置づけられることは少なくない。たとえば私はカメラが好きだが、一般の人たちはオリンピックのカメラ席でキヤノンやニコンが使われる比率を見て、「今はこっちのブランドのほうがいいのか」という気持ちになる。ピアノも同じで、プロが使っているのは非常に大きな選択材料になる。


中田卓也(なかた・たくや)/1958年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、日本楽器製造(現ヤマハ)入社。電子楽器事業に携わった後、2010年より米国法人社長。2013年より現職(撮影:梅谷秀司)


──ブランド力を高めようとする一方、販売数量が多いのは中級品や普及価格帯のものです。中国では新興メーカーのパールリバーがシェアを高めています。追いかけてくるプレーヤーとどう戦いますか。


現在中国ではピアノが二極化している。販売台数ではパールリバーのほうが多いと思うが、彼らは普及価格帯のピアノでとどまっており、金額ベースではヤマハのほうが多い。


以前は「何でもいいからアコースティックピアノが欲しい」というニーズがあったが、最近は「どうせアコースティックピアノを買うなら、なるべく良いものが欲しい」という声がある一方で、「都市部(の集合住宅など)で音量に配慮するには電子ピアノのほうが便利じゃないか」という需要もある。両方ともヤマハが強い部分で、ピアノ需要の二分化は追い風になる。


お客様のニーズに合致したピアノを提供するのがわれわれの使命だ。たとえば18世紀にできたアップライトピアノは、元々グランドピアノの代替品だった。当時の技術で作ったからああいう形になった。だが現在の技術ならもう少し違う形で作れるのではないか、と思って開発したのが、2009年に発売した(電子ピアノの)「アバングランド」シリーズだ。省スペースであるにもかかわらず、響きや弾き心地ではグランドピアノに近いものがある。そのときに使える最高の技術を使う。それができるのがヤマハだと思っている。


「アバングランド」シリーズは、アコースティックピアノに必要な弦や響板が無い代わりに、その響きを再現するスピーカーシステムなどを搭載している(写真:ヤマハ)


アコースティックと電子の“いいとこ取り”


──ヤマハが持つ技術面の強みとは何でしょうか。


アコースティック楽器と電子楽器の両方の技術を持っていることがある。かつてヤマハはアコースティックピアノと電子ピアノを完全に別の部署で開発していたが、今は「ピアノというビジネスでひとくくりにして考えよう」と呼びかけ、お客様のニーズに合うよう技術を組み合わせることに取り組んでいる。


電子楽器メーカーは多々あるが、われわれは1950年代に開発したエレクトーンを皮切りにいち早く電子楽器の展開を始めた。電子楽器を作るということは、音源だけでなく、たとえばグランドピアノの共鳴音などを再現する音響技術や、鍵盤とハンマーの繊細な動きを正確にとらえるセンシングといった技術も養われる。電子楽器の歴史の分だけ知見があるため、どの部分がどう機能していて、どう電子化するか、といったことがすべて手の内にある。


生産面も長年の蓄積がある。楽器は職人が作る世界だったが、ヤマハは1950年代頃から生産技術を磨いてきた。ピアノを加工するための機械を自社で内製し、年間何十万台も大量生産できる体制を整えた。


静岡県にある掛川工場では、広大な敷地内でグランドピアノが作られている(編集部撮影)


すると会社の規模が大きくなり、電子楽器のエンジニアもたくさん採用できるようになった。そのほかにもヤマハはギターや管楽器、音響機器も手掛けている。異なる分野のエンジニアをミックスすることで、ピアノを専門とする技術者だけでは発想できなかった製品も生まれた。音量を調節できるアコースティックピアノがあるが、これは音響機器の技術者が加わって初めて実現できたものだ。


──日本にいると楽器全体の市場成長を感じられませんが、世界的には今後どのように市場が動くと見ていますか。


市場全体を見ると、緩やかには成長していく。ただ地域別に見ると色が違っていて、先進国の中でも、日本は人口が減っており市場としての成長が難しい。現在は中国で毎年2ケタの成長がずっと続いている。新興国でも国民所得が上がるにつれて、どんどんニーズが高まってきている。中国の次は、たとえばインドネシアやインドで大きく成長し始めている。


テクノロジーでもっと新しい価値をつける


──その中でピアノ市場の現状は。


アコースティックピアノは中国だけを見ると2ケタの成長が続いているものの、それ以外の国では微減。世界全体では成長が止まっている。


一方で、電子ピアノは世界中で需要が伸びている。先進国でもピアノそのものに対する需要が減ったわけではなく、アコースティックから電子に消費が移っている。だから、鍵盤楽器を弾くお客さんの数はまだ世界中で増えている。


ヤマハはアコースティック鍵盤の感触を再現した電子ピアノの展開にも注力している(撮影:梅谷秀司)


アコースティックピアノの最大のライバルは、「中古ピアノ」だ。何も仕様が変わらなければ「中古品でいいじゃないか」と思われる。しかし音量をコントロールできるなど新しいピアノでしかできない機能があれば、中古ピアノに対して優位性を保てる。これは他社のアコースティックピアノに対しても優位性を保てるということでもある。われわれはテクノロジーでもっと新しい価値をつけようとしている。


お客さんにとってはアコースティックもデジタルもなく、ピアノはピアノだ。だからこそ、「トータルピアノ戦略」として開発や販売を進める。他社も研究しているとは思うが、ヤマハとしては必ずその一歩先、二歩先を行くという自負を持っている。


(第3回「ヤマハ、『多角化失敗』の過去から学んだこと」は8月14日公開予定)





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