鋳造メーカーの炊飯器は何が違うのか 舞台裏に迫る – ニコニコニュース

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炊飯器「バーミキュラ ライスポット」が売れている
ITmedia ビジネスオンライン

 素材本来の味を引き出す鍋として評価の高い、愛知ドビーの鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ」。これまでに累計25万個以上も売れているが、2016年12月、同社はバーミキュラを生かした究極の炊飯器「バーミキュラ ライスポット」(7万9800円、税別)を発売した。

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 バーミキュラ ライスポットは、専用のバーミキュラと専用のポットヒーターで構成。鍋炊きのおいしさはそのままに、火加減調整を不要にした。オリジナリティーの高い見た目もさることながら、保温機能の省略や、炊飯だけでなくさまざまな調理にも対応しているなど、既存の炊飯器とは違う機能性も目を引く。

 しかし同社にとって家電は専門外。家電への進出には何があったのだろうか? 今後、家電事業を強化していくのだろうか?

●火加減の難しいご飯も簡単においしく炊ける究極の調理器をつくる

 バーミキュラ ライスポット誕生の発端は2013年にさかのぼる。当時、バーミキュラはすでにヒットしていたが、火加減にコツがいることから、料理の得意な人でないと使いこなすのが難しいというイメージができつつあることが課題となっていた。

 「そこで、料理が得意な人たちだけでなく、苦手な人やトップシェフと呼ばれる人たちにも楽しんでもらえる製品をつくることにしました。そのとき、バーミキュラに最適な火加減を自動化して提供すれば、失敗せずに、そして想像を超えた味が出せる究極の調理器ができると考えたのです」

 このように話すのは、開発を担当した代表取締役副社長の土方智晴氏。火加減の自動化については、欧米でバーミキュラを紹介した際、火加減を教えることが難しく、憶えてくれようとしてくれなかったこともきっかけになった。つまり、火加減の自動化は海外にバーミキュラを広げる上で、不可欠な要素だったのだ。

 では、なぜ炊飯機能を持たせることにしたのか。それは、日本人が考える最も火加減が難しい調理が、炊飯だからである。ご飯こそ、火加減の自動化を強く印象付ける料理であり、おいしいご飯を炊くことは世界最高の調理器をうたうために乗り越えなければならない壁だった。

 それに、バーミキュラで炊いたご飯の味に自信もあった。バーミキュラで炊いたご飯と家電メーカー各社から発売されていた最高級炊飯器で炊いたご飯を社内でブラインドテストをしたところ、バーミキュラで炊いたご飯のほうがおいしいという結果が出た。家電メーカーを超えるものができれば、バーミキュラの性能や良さを評価してもらえるという確信があった。

失敗した他メーカーとの協業から得た教訓

 とはいえ、火加減の自動化の実現は、同社だけでは不可能。開発に協力してくれるパートナーが不可欠だった。大手家電メーカーと競合するためパートナー探しは難航するが、とある業務用厨房機器メーカーが協力してくれることになった。愛知ドビーがデザインと仕様の決定、業務用厨房機器メーカーが設計を担当することになった。

 「機能を満たす設計は、業務用厨房機器メーカーに丸投げする形でお願いしていました」と振り返る土方氏。しかし、この進め方ではうまくいかなかった。

 その理由は、同社と業務用厨房機器メーカーの間に開発に対する温度差があったから。「開発に協力してくれた業務用厨房機器メーカーは一生懸命やってくれましたが、『世界最高の調理器をつくりたい』という当社の想いが、なかなか伝わらず、思い描くものができなくなってしまったんです」(土方氏)。例えば、炒め調理が可能な耐熱温度の実現を要求しても、「無理です」と断られてしまったことなどがあったという。

 結局、この協業はうまくいかず、2015年に解消する。このときの反省点として土方氏は、「『つくってもらう』という考えになっていたこと」を挙げる。自分たちで設計しないと納得できるものはできないと悟ったことから、技術者を採用し自社で設計。専門性が求められるプリント基板の設計などは、外部の専門メーカーに直接、協力を依頼した。

●炊飯器なのに保温機能を省略した理由

 このように紆余曲折を経たポットヒーターの開発は、底面をIH、側面をアルミヒーターで加熱し、かまど炊きと同じような立体的な加熱を実現。風の影響を受けない分、熱の入り方がかまど炊きより安定することになった。

 また、他の炊飯器には普通にある保温機能を省略した。保温機能を省略したのは、保温したご飯はおいしくないこと、保温用のフタをなくすと手入れが簡単になり衛生的ということのほかに、保温機能をなくしたほうがおいしく炊けるということがあった。

 保温機能があるとおいしく炊けないのは、炊くときにスムーズな対流が起こせないため。スムーズな対流を起こすには、鍋の下部と上部に温度差をつくらなければならないが、保温機能を持つ外フタを設けると温度差が生まれず対流が起こせなくなる。そのため、保温を目的とした外フタをなくして鍋の下部と上部で温度差をつくり、スムーズな対流を起こすことにした。

一本の溝が吹きこぼれを防止する

 また、使用するバーミキュラ鍋が、それまでのものと比べると微妙に異なっている。最大の違いは、吹きこぼれないようにしたこと。バーミキュラは無水調理鍋なので、通常は強火を使わないが、ご飯を炊くときは強火を使わないとおいしく炊けない。その一方で、バーミキュラの特徴である密閉性の高さは、ご飯をおいしく炊くためには欠かせなかった。

 吹きこぼれないようにすることと密閉性は両立しないが、圧力鍋のような部品を追加する構造を採用すれば解決できる。しかしそれは、「鋳物屋の美学に反する」(土方氏)。鋳物屋らしく形状で解決することにした。

 解決策として採用されたのが、フタの裏に「フローティングリッド」と呼ばれる溝を一本追加したこと。フタと本体が合わさるところに、やや長めの溝を追加することで、強火で炊いて中の圧力が高まったときに、そこだけ少し浮き蒸気を逃がすようになった。これだけで、夜寝ているときも吹きこぼれを心配することなくご飯が炊けるというわけである。このように書くと「簡単な工夫じゃないか」と思われたかもしれないが、深さや長さ、幅、場所が決まるまでに、少なくとも30近くの試作をつくって検証したという。

 フタに関してはフローティングリッドだけでなく、炊きあがったご飯のべちゃつきを抑えるために、「ダブルリッドリング」と呼ばれるリング状の突起を裏に2本追加。これにより、おひつとしても使えるようにした。また鍋本体については、対流を起こしやすいよう丸みを帯びたものに変更した。

●小売店の販売員を教育しながら取り扱い店舗数を拡大

 こうして完成したバーミキュラ ライスポットは、年間5万台を目標に販売を開始。現在のところ、予想以上に売れており、発売から半年近くで3万1000台以上も売れている。

 評判は各メディアを通じて拡散していったが、販売に関しては当初、愛知ドビーの社員が販売員として常駐する25店舗のみに絞った。現在は、同社社員が常駐しないところでも信頼できる家電量販店での取り扱いも徐々に増やしているところで、5月末時点での取り扱い店舗数は50近くになった。2017年内に100店舗まで拡大したいという。

 しかしなぜ、当初は販売店舗を限定したのだろうか? その理由を土方氏は、次のように話す。

 「当初から、きちんと接客しながら良い点、悪い点ともに伝えて販売できるところでないと販売したくないと考えていました。調理もできる、鋳物ホーロー鍋がむき出しになっているなど、独自のコンセプトに基づく特徴をしっかり説明できないと、お客さまの不満足につながりかねないからです。まず、当社社員が販売員として店頭に立ち、店舗の販売員に接客の様子を見てもらい、売り方を理解していただくようにしています」

 ユーザーの満足度は、小売店の接客レベルがカギを握っていた。そのため、一定の接客レベルに達していない店舗には取り扱いを認めていないということである。小売店の販売員には、店頭での接客の仕方だけでなく、同社での調理実習も行い、味を憶えてもらうこともしている。

 また、輸出に関しては現在、電圧の問題や法規制の対応などを調べているところ。これらが順調にクリアできれば、来年早々には欧米への輸出が始まるという。

 炊飯器としてだけでなく、煮る、炒めるなどさまざまな調理に対応する万能調理器としての顔も持つバーミキュラ ライスポット。今後も、料理が楽しくなるという視点から新たなアイテムの展開も考えているとのことだが、必ずしも家電にはこだわっていないという。

 次もきっと、斬新で、誰もがアッと驚くものになる予感がする。

(大澤裕司)

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