衣食住に新たな消費 「日常アスリート」都会を駆ける – 日本経済新聞

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ランニングの時もメークやヘアアレンジに気を使う(東京都品川区)

 2020年の東京五輪・パラリンピックに向けスポーツへの関心が高まる中、日常生活にスポーツが溶け込んだ新たなライフスタイルが誕生している。担い手は軽い運動でアスリート気分に浸りたいという「日常アスリート」たち。おしゃれにスポーツを楽しみ、食事はアスリート並みに気を配る。こだわりいっぱいの生活ぶりは、あらゆるシーンで新たなビジネスチャンスを生んでいる。

■「引き締まった体」意識したフード&ドリンク

片岡さんは栄養価の書かれたレシートを保管して栄養バランスのチェックを欠かさない。この日はモロヘイヤスムージーをオーダーした(DNSパワーカフェ大手町 9月14日午後5時ごろ)

 「(筋肉をつくる)たんぱく質が豊富だし、おいしい」。9月中旬の午後5時すぎ、「DNSパワーカフェ大手町」(東京・千代田)で、会社員の片岡安希子さん(47)は満足そうにモロヘイヤの特製ドリンクを飲んでいた。

 片岡さんは「日常アスリート」の一人だ。在住する神奈川県逗子市のクラブジムに所属して週に2回は汗を流す。ヨガのほかカヌーなどのマリンスポーツ、山の中を走るトレイルランニングなどに熱心に取り組む。「心身の健康を保ち、引き締まったしなやかな体になる」のが狙いだ。

 平日でも“アスリート意識”を徹底している。DNSパワーカフェ大手町はスポーツ栄養学に基づいた高たんぱく低脂質のメニューを提供するとあって、週に1回はランチを楽しむ。

 ローストビーフやサーモン、ブロッコリーの入ったメニューがお気に入りで、「たんぱく質や野菜をバランス良く摂取するよう心がけている」。同店のレシートにはたんぱく質と炭水化物、脂質の量が記載されており、ノートに貼って栄養価の管理を欠かさない。

■ランガールのファッションは「走れる」が基準

 ランニングが趣味の東京都在住の自営業、影山桐子さん(41)。スポーツを始めて大きく変わったのは、洋服を買う場所だ。以前は百貨店などが中心で「ドレッシーな格好をすることが多かった」。だが今はアウトドアショップやスポーツショップで購入するように。「洋服や靴を選ぶ基準が『走れて、かつ普段の服にも合わせられるもの』に変わってきた」

 最近のお気に入りはゴールドウインが展開するザ・ノース・フェイスで購入したランニングパンツやトレーナー。「ランニング用に購入したが、デザインがおしゃれなのでちょっとした買い物などにも着ていける」。土日などは駒沢の自宅から渋谷や二子玉川までランニングしながら買い物に行くこともあるという。

和室をトレーニングルームにリフォームした森山さんの家(大阪府豊中市)

 ランニングは「タイムを極めるわけではなく、あくまで楽しむため」という影山さん。おしゃれなウエアやシューズが増えたことで、未経験者の女性の関心も高まった。周囲でも「スポーツをライフスタイルやファッションの一部として捉える人が増えている」。

 ジムの設備を自宅にまで取り込んだ人もいる。朝6時、大阪府在住の森山典子さん(41)の1日は一杯の白湯と30分間のヨガから始まる。

 自宅のトレーニングルームはガラス張りで、まるでジムの一室のよう。4年ほど前に4畳半の和室をリフォームした。「わざわざ外のジムに行かなくても、パジャマ姿でトレーニングできるのが良い」とほほ笑む。

■「アスリート需要つかめ」企業も動く

「ランガールナイト」で行われたランナーのためのヘアアレンジ講座(東京都品川区)

 日常生活にスポーツが浸透することでライフスタイルは一変する。「日常アスリート」が生み出す、そんな新たな需要をつかもうと企業も動き始めている。

 「ファンデーションは薄めに。頬の高い部分にだけ重ねれば、立体感が出て日焼けも防げますよ」。9月上旬、東京都内で開かれた女性向けランニングイベント「ランガール★ナイト」。化粧品メーカーのコーセーなどが協賛し、崩れにくくスポーツウエアに映えるメーク講座が開かれ、女性らが熱心に耳を傾けた。

 40代の女性会社員は「SNS(交流サイト)用に写真を撮ったり、昼休みにランニングしたりするので、走る時もきれいでいたい」と笑う。

 「以前は『走るのに化粧なんて』という風潮だったが、ここ3~4年、メークする女性ランナーが増えた」。イベントを主催する一般社団法人ランガールのメンバーで、ヘアメーキャップアーティストの長井かおりさんは話す。

 ジャージー素材のトレンチコートや、はっ水加工のカーディガン――。昨年9月に東京・渋谷にオープンした「ナージー渋谷」は、通勤着や日常着としても着られるスポーツウエアをそろえる。

 中堅アパレルのジュンが、スポーツ用品大手のナイキの協力を得て運営。おしゃれなスポーツウエアは「ジムのロッカーに入れてもしわにならないし、通勤時でも浮かない」と好評で、売り上げはオープン時に比べて2割増えた。

 ユニクロも「ユニクロスポーツ」と名付け、速乾性などの機能と街中でも着られるデザインを兼ね備えたアイテムを展開する。

 中古住宅リフォームを手掛けるウィル(兵庫県宝塚市)によると「ここ2~3年、スポーツの要素を取り入れたいというリフォーム依頼が増えてきた」。家のはりに懸垂用のバーをつけたり、筋トレ用のロープを垂らしたりするほか、鏡張りのトレーニングルームを設置した例もあるという。

DNSパワーカフェ大手町で食事代替シェークのMRSを飲む女性客(東京都千代田区)

 「ヨーグルト味でおいしい」。東京都内のフィットネスジムに通う女性(24)が手に取るのはプロテイン飲料。スポーツ熱の高まりを受け、プロテイン市場は11年の約127億円から15年は約220億円(見込み)と約1.7倍に拡大した。

 市場首位の明治はココアやアセロラ風味など女性向け商品を増やしており、「マイボトルに入れて会社に持参し、おやつ代わりにする人も増えている」(同社)という。

 「日常アスリート」からは、スポーツ専門店には敷居が高くて入りづらいという声も聞かれた。共通するのは、あくまでも手軽にスポーツを楽しみたいというライトな感覚。「スポーツをしているステキな自分」を楽しむという価値観がポイントだ。そんな価値観に合わせた売り場作りが、スポーツ店のみならずアパレルや飲食店にも求められそうだ。

■東京五輪きっかけに「アスレジャー」市場広がる

 スポーツと日常生活の融合は米国が先駆けだ。運動着を街着に進化させたカジュアルなファッションが「アスレジャー」と呼ばれ、広く浸透している。

 アスレジャーとは、アスレチック(運動)とレジャー(余暇)を組み合わせた造語。昨年初めごろから若い女性の間でブームとなり、幅広い世代に広がった。米国では2020年にアスレジャー市場が1千億ドル(10兆円)に拡大するとの調査もある。

 日本でも東京五輪へ向けたスポーツ熱の高まりや健康意識の向上を背景に「スポーツ市場は活性化する」(関東学院大学経済学部の小山厳也教授)との見方が強い。民間調査会社の矢野経済研究所は、スポーツウエアなどを含めた16年の国内スポーツ用品市場は11年比で16.5%伸び、1兆4286億円と予測。5年連続のプラス成長になる見通しだ。

 実際にスポーツをしたり観戦したりするだけでなく、「スポーツの周辺も含めてお金を使う傾向が強まってきた」と小山教授は指摘する。例えば野球では、「デザインがかわいい」「サイズが大きめできゃしゃに見える」として、試合のない日でもレプリカユニホームを身につける「プロ野球コーデ」が10~20代の女性の間でブームになっている。「日常アスリート」の消費はさらに裾野が広がりそうだ。

(田島亜紀子、宇都宮想)

[日経MJ2016年9月16日付]

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