浜松の街を知る手がかり。 KAGIYAビルと、その周辺の人々をめぐる。 – 雛形

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浜松は、広くて近い

「KAGIYAビル」を、丸ごと一棟買い取った丸八不動産の若き社長・平野啓介さんは、若い世代が街の文化を生み出し発信していくための拠点が、浜松の街には必要だと考えていた。買い取ったばかりの2012年当初は、もともと入っていた数軒のテナントと事務所以外、新しいお店は「BOOKS ANS PRINTS」のみだった。そこから、アンティークショップ、アパレルショップ、デザイン事務所、ゲストハウス……一店舗、また一店舗と、時間をかけて少しずつ、新しい店がオープンしていった。平野さんがそれを意図していたのかどうかわからないけれど、なんとなく、その時間のかけかたは“地域活性”の正しいあり方のように思えた。

ゆりの木通りに面したKAGIYAビルの側面。左側に入り口があり、「BOOKS AND PRINTS」はじめ、新しいテナントが軒を連ねている。

そして、KAGIYAビルでは、浜松内外の人たちに今の浜松を知ってもらいたいと、年に一度、フリーペーパーを発行している。私は、今年発行する号で声をかけていただいて、制作に関わらせてもらうことになった。その内容は、「1泊2日を想定した浜松の旅行記を書いてほしい」というもの。なぜ1泊2日なのか? とKAGIYAビルの人たちに聞くと、こう返ってきた。

「浜松というのは、東京からも大阪からも、日帰りができてしまうんです。案内したい場所があってもそれぞれ離れていて、車がなくて日帰りとなると、浜松の良さを味わってもらえないまま帰してしまうことになる。だから、実際に石田さんに1泊2日の旅を体験して記事にしてもらいたいのです」

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旅のプランを立てるべく、地図を広げKAGIYAビルの人々がおすすめしてくれたスポットにピンを置いていくと、スケール感が見えてきた。浜松は想像以上に広い……。2005年に12の市町村が合併したことで、“新・浜松市”は、海も山も湖も、自然も都会も、すべてを含むことになったのだ。時間さえ許せばあらゆる体験ができる場所。それも、私の知らない浜松だった。

あれこれ欲張ろうとすると、到底1泊2日の旅では回りきれるわけもなかった。その紀行は、KAGIYAブックレットの4号に詳しいとして……その旅では時間切れとなって会えなかった人たちを、ここでもう少し紹介してみたい。取材をしていくうちにわかってきたのは、浜松はすごく広いけれど、人と人とは近い関係にあるということ。浜松の街が、私のなかでだんだんと輪郭を帯び始めていた。

1 ヘアサロン「enn:」

子どもも大人も喜ぶブランコ付きヘアサロン。

子どもも大人も喜ぶブランコ付きヘアサロン。

林久展さん、裕子さん、与哩くんと、愛犬のチャールズ。

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「enn:」は、「BOOKS AND PRINTS」から道を挟んですぐのところにある。浜松生まれ浜松育ちでサーファーの林久展さんがオーナー。気立てのいい奥さんの裕子さんも美容師で、頭の形がまんまる(!)の可愛い1歳の息子と3人家族。以前は、近所の「手打ち蕎麦 naru」と一緒に東京からアーティストを呼んで展覧会を企画したり、ビルの屋上にテントを張ってイベントを開いたり、事あるごとに人が集まれる場を作っていた。最近は子育て期に突入し、かつてほどイベントごとに関われていないけれど、今も若者たちのいいアニキとして慕われている。ここで何度か友人が髪を切るところに居合わせたことがあるけれど、みんないい塩梅に仕上がっていたので、腕も確かなのだと思っている。

ヘアサロン「enn:」
住所:浜松市中区田町326—17 三展ビル2F
電話:053-458-4508
http://www.enn-enn.com

2 中国料理・点心「氷箱里」

青島孝政さん。店の顔として、毎日自らホールに立つ。

点心と、辣子河虾(川エビと山盛り唐辛子の香り炒め)。

こちらが評判の担々老醤冷麺。挽肉とトマトとナス、雲南省の調味料、老醤(雲南の豆板醤)を使ったコクのある味わい。

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浜松グルメというと、鰻に餃子がまず浮かぶのだけど、夜、もう少ししっとり食事がしたいと思うこともある。浜松の友人たちの間で、外から来たお客さんをもてなしたい時には“必ずここ”というお店が、中国料理と点心のレストラン「氷箱里」。こちらの支配人、青島孝政さんが中国各地(天津・広東省・雲南省)での留学経験から始めたお店だ。入り口すぐのガラス越しに、広東省の国家一級点心師・リュウさんが鮮やかな手つきで点心を作る姿が見られる。エリアを特定せず、中国全土の家庭料理をアレンジしたメニューは、どれをとっても美味しいのだけど、皆が毎度欠かさずオーダーするのが、浜松の手土産としてもすっかり有名になった、もち豚の韮饅頭。そして、地元の人たちが毎年今か今かと心待ちにしているという冷麺も、今年は老醤という調味料を使った担々麺で絶品だった。オールド・チャイナを思わせる落ち着いた空気感が漂う店の内装は、大阪の内装チーム「graf.」が手がけたものだと聞いて、なるほど!と大きく頷いた。


中国料理・点心「氷箱里」

住所:浜松市中区板屋町628 Y3ビル5階a

電話:053-451-3031
http://www.bing-xiang-li.com

3 自然食品店「やまこう」

飯田康司さんと桃子さん。

飯田康司さんと桃子さん。

遠州の在来種というニンニクも。

遠州の在来種というニンニクも。

見やすい陳列で、ゆったり買い物ができる気持ちのいい店内。

見やすい陳列で、ゆったり買い物ができる気持ちのいい店内。

4歳になる休(ヤスミ)くんが接客してくれることも。

もともとは、同じ場所でお花とアンティークの店を構えていたのを、2年前、出産を機に自然食品店へと切り替えたという、飯田康司さん・桃子さん夫妻。遠州の人らしい朗らかな人柄から、彼らを慕ってお店に通う常連客も多く、取材の時にも小さな子どもを連れたお母さんが入れ替わり立ち替り買い物にきていた。横浜を拠点に全国を飛び回る、旅する八百屋「青果ミコト屋」から仕入れた自然栽培や在来種の野菜と、地元で頑張っている生産者の野菜、自分たちで実際に使っている日用品、量り売りの米、豆、味噌、洗剤など。生活者にとって嬉しいポイントを一つひとつ丁寧におさえたようなラインナップにも、桃子さんのやさしい母の目線が感じられる。

自然食品店「やまこう」
住所:浜松市東区将監町16-13

電話:053-462-7337
http://www.yamakou.co

4 蒲御厨(かばのみくりや)おかげ朝市

やまこうの庭に集まった浜松のオーガニックなお店。この日はスパイスワークショップも開催。

やまこうの庭に集まった浜松のオーガニックなお店。この日はスパイスワークショップも開催。

人気のかき氷屋さん。

人気のかき氷屋さん。

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上の「やまこう」の飯田さん(旦那さんのほう)と、浜松の仲間2人とで、今年から月に一度開催しているという「蒲御厨おかげ朝市」。「うちの店のすぐ近くには伊勢神宮ゆかりの神社『蒲神明宮(かばしんめいぐう)』があるのですが、この神社の周辺一帯は、伊勢神宮に食べ物を献上していた土地で“蒲御厨”という名で呼ばれていました。なので、そこから名前をいただいて、 “古い歴史から新しい時代の暮らしや働き方を見つける朝市”にしようと始めたんです」と、飯田さん。「やまこう」の庭で、この日はコーヒー、かき氷、オーガニックコットン、アジアンフード、酵素ジュースなど、地元のオーガニックなお店が集まっていて、お客さんも含めた年齢層にもバラエティのあるコミュニティができつつあるように見えた。昔には商店街にあったような横のつながりやお客さんとのつながり、祭りが担っていた寄り合いの場が、ひとつに合わさったものが今でいうマーケットの存在なのかもしれない。

蒲御厨おかげ朝市
毎月第3日曜日 8:00〜12:00 開催
http://www.yamakou.co/okageasaichi

5 自転車店「グリーンコグ」

山本雄一郎さん。

山本雄一郎さん。

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海に近い倉庫街にある「グリーンコグ」。ゆくゆくはカフェを併設しようという話もあるそうだ。

海に近い倉庫街にある「グリーンコグ」。ゆくゆくはカフェを併設しようという話もあるそうだ。

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浜松で明治時代に創業した、日本一と言われるロードバイクの老舗「ミソノイサイクル」。こここで5年半修業して、2年前に自身のお店「グリーンコグ」をオープンしたという、山本雄一郎さん。ミソノイサイクルで培ったノウハウをもとに、自分でお店を持つならやってみたかったのは、カスタムとリペアに特化した自転車店だったという。「本格的なスポーツとしての自転車よりも、毎日の相棒で旅仲間のような自転車を提案したい。その人の生活スタイルに合わせてカスタムするし、うちで買った自転車じゃなくてもリペアします」と、山本さん。こんな自転車店が地域にあれば、車社会の浜松でも自転車の良さに目覚める人が少しずつでも増えていくかもしれない。「浜松が好きすぎで、この街を出るなんて考えたこともなかった」という山本さんは、行政が主導となってスタートした浜名湖を自転車で巡る観光プロジェクトに加わり、サイクリングルートやターミナル設置などの仕組みについて話し合いを重ねているところだと、意気揚々話してくれた。

自転車店「グリーンコグ」
住所:浜松市南区卸本町28GSビル1F

電話:053-441-8151
http://www.green-cog.com

6 移動式カフェ「タタズミcoffee」

浜松城公園の時計台の前でいつも行列を作っている「タタズミcoffee」。

浜松城公園の時計台の前でいつも行列を作っている「タタズミcoffee」。

マスターの松島弘幸さん。

マスターの松島弘幸さん。

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古民家再生やリノベーションを手がける会社を経て、コミュニティを生み出すような仕事がしたいと、移動式のコーヒースタンドを始めたという松島弘幸さん。浜松城公園の時計台前に停まった「タタズミcoffee」には、ほぼ一日中行列ができていて、季節柄、ふわふわのかき氷とアイスコーヒーが飛ぶように売れていた。公共の場でこそ意味があると、この場所に店を出し始めて2年ほど。その想いの通り、子ども連れからお年寄りまで、あらゆる層の人たちが屋外喫茶店に集ってひとときの時間を過ごしていた。一杯ずつ丁寧にハンドドリップで淹れるコーヒーは、「質の高いコーヒーが普通に飲める店にしたい」と、地元で有名なロースタリー「ポンポン」から仕入れたスペシャリティコーヒーの豆を使用。この公園の中に浜松市美術館があり、若木信吾さんの写真展の帰りに美味しいコーヒーを、というのもいいコースだと思う。

「タタズミcoffee」
浜松城公園(浜松市中区元城町100-2)

出店スケジュールはfacebookで随時更新
http://tatazumi.com

7 染織家・山内武志さん

染色家・山内武志さんの工房にて、型染めの作業を見せていただく。

染色家・山内武志さんの工房にて、型染めの作業を見せていただく。

もち粉と米ぬかを原材料に作った糊で、生地に型をのせていく。

もち粉と米ぬかを原材料に作った糊で、生地に型をのせていく。

染色家の山内武志さん。芹沢先生のお弟子さん時代の貴重なお話を伺う。

染色家の山内武志さん。芹沢先生のお弟子さん時代の貴重なお話を伺う。

山内さんの作品がずらりと並ぶ「アトリエぬいや」。バッグやクッションカバーなど、使えるものがたくさんあるのも嬉しい。

山内さんの作品がずらりと並ぶ「アトリエぬいや」。バッグやクッションカバーなど、使えるものがたくさんあるのも嬉しい。

ご実家がもともと紺屋(藍染の工房)だったことから、縁あって人間国宝の染色工芸家・芹沢銈介氏のお弟子さんになったと話す、染色家の山内武志さん。77歳になった今も、年齢をまったく感じさせない機敏な動きで毎日工房に立ち作業をしている。「少し暇でもできれば、試してみたいこととか考えてみたいことがあるんだけどね。暇なときに考えついたことって、案外役に立たない。仕事やってるときに考えつくことの方が多いんですよ。仕事が仕事を生むんだね」そう言って、山内さんはガハハと笑う。屈託ない人柄から、とてもフレンドリーに接してもらえるけれど、その職人技術と創作性は浜松が誇る存在なのだ。

工房で型染めの一連の作業を見せていただいたあと、「今となったら笑い話」という、芹沢先生の下で柚木沙弥郎さんなどのお弟子さんたちと過ごした苦労のエピソードを伺いながら、楽しい時間を過ごすことができた。ここ最近では、バッグブランド「TEMBEA」や、新潟のライフスタイルブランド「f/style」、大阪のセレクトショップ「dieci」などからの依頼で、染色の生地を作ることもあるそうで、まだまだ周りが引退させてくれそうにない。浜松駅から徒歩10分ほどのところに、山内さんの作品が一同に見られるギャラリー・ショップがある。民藝のファンのみならず、浜松を代表する作家にぜひ触れてみてほしい。

「アトリエぬいや」
住所:静岡県浜松市中区中央3-8-30

電話:053-457-4777
http://www.geocities.jp/nuiya_katazome/


『KAGIYA』ブックレット設置場所
BOOKS AND PRINTS 

写真:中村ヨウイチ 文:石田エリ



石田エリ/編集者・ライター。ライフスタイル誌『ecocolo』編集長を経て、昨年よりフリーランスに。ecocolo在籍中からの関心事だった食と旅をテーマに、国内外で取材を重ねている。現在、数冊の書籍を編集中。ほか、ANAの機内誌『翼の王国』での執筆、地方行政や企業の広告ツールなどを多数手掛ける。



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